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浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』ネタバレ感想

浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』角川文庫 2021年1月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

通っている二子玉川の美容室の人がおもしろいと言っていて、この作者の存在を知りました。その日のうちに二子玉川高島屋の本屋で購入しました。実際めちゃめちゃおもしろかったです。2~3日くらいで読破しました。最近はビジネス系の新書ばかり読んでいたので、久しぶりにはまった小説でした。おもしろすぎて後半は一気読みでした。そのあと、この作者の他の小説もすぐに購入してしまいました。

内容については、ネタバレで語っていこうと思います。

序盤で能力が出てきたときはちょっと驚きましたけど、条件が細かくてバランス的にも考えられていて、世界観にすんなり入ることができました。1人の人に対して3回までしか使えないとか、学校の敷地内でしか使えないとか、高校生のときしか使えないとか、そういうのがとても良いですね。ちょうどいい感じというか。能力の無い世界観の中に能力が入り込めるギリギリの線というか。

犯人の能力を推測していく展開も、とても熱かったです。精神操作だとすると強すぎて違和感があるという展開、かといって他の能力も想像しづらくって、わくわくしながら読めました。幻影を見せる能力というのは明かされるまでわかりませんでした。でも明かされたあとは納得でした。自殺に見せかけるための戦略についても、とても説得力があっておもしろかったです。

序盤~中盤で読んでいる途中にあった違和感が最後にはすべて納得というか、なるほどそういうことだったのかということばかりで、すごかったと思います。こんな大事な能力がランダムで手紙で送られるというのも違和感ありましたけど、先輩後輩の関係のイシミズさんから送られてきていたというので納得感ありましたし。おそらく檀優里も元の能力者の自殺した生徒と親友だったからという理由で名指しされた展開だったのだろうと推測できますし。

終盤でスクールカースト的な話になったのも、なかなか良かったです。良いクラスと思っている側と思っていない側の断絶や、悩みについても共感できる部分が多かったです。バイトを辞めようとしたら拒否されて怒られて嫌な気持ちになるとか、親から理解されないで外へ飛び出すとか、周りの世界と自分の価値観との違いになじめないとか、そういう男子高校生の悩みあるあるな感じがうまく描写されてる作品だと思いました。というか、こういう高校生活の作品に触れると自分が高校生のときを思い出すみたいなところはありますよね。高校生のときの思春期の悩みとかこの年になってもすべてリアルに覚えていますし。

結局他の能力の細かい部分については判明していないところも多いですよね。幻影を見せる能力にしても同じ人に何回まで使えるのかとか。たぶん全能力が同じ人に3回までで高校の敷地内限定なのかな。バランス的な意味で。好き嫌いがわかる能力の発動条件については最後までわからなかったですよね。近くにいるときに何かすれば使えるという感じなのでしょうけど、触らなくても良さそうで、かといって考えたら発動とかだと日動的に発動してしまいそうですし、ちょっと条件は推測できませんでした。

教室がひとりになるまでというタイトルの意味、連続殺人が起こっていく作品なのかと素直に思っていましたけど、スクールカーストをなくす的な意味で、これはとてもおもしろかったです。

最後の「もちろん」という終わり方も、ちょっと救いがあって良かったです。別々の道を進むけど助け合えるというのは、とても良いバランスというか、いい終わり方だったなと思います。楽観的でもなく悲観的でもないぐらいで着地させようという作者の気配りというか思想を感じました。安心して読める作品だったなと思います。