読んだ本の感想など

電車の中やカフェで読んだ本の感想などを。

光文社新書『漫画の未来』感想

小川悠介『漫画の未来 明日は我が身のデジタル・ディスラプション』光文社新書 2024年2月刊

 

 

韓国発のウェブトゥーンが漫画に代わっていく可能性について語られた本。私は漫画はかなり読みますけどウェブトゥーンはほとんど読んだことがありませんでした。『俺だけレベルアップな件』とか『女神降臨』とか『外見至上主義』くらいはさすがに知ってるというレベルで、それも無料で読める部分だけ読んだことがあるくらいでした。ちなみにどれも特にはまりませんでした。絵はカラーで綺麗と思いますけどキャラクターとストーリーが弱いなという感想だったと思います。

ウェブトゥーンがチームで製作されているとか、いろんな会社が参入しようとしているとか、知らない話ばかりでおもしろかったです。漫画業界が過去一番レベルで盛り上がっているのは知っていましたけど、ウェブトゥーンもここまで盛り上がっているとは知りませんでした。エンターテイメントの世界に新しい波が来るのはとても楽しみですね。おもしろいウェブトゥーンが生まれてきたら絶対読もうと思います。

作中で語られていませんでしたけど、なぜいま漫画が過去一番レベルで盛り上がっているのかという話で言うと、単純に漫画業界に才能のある人が集まっているからだと思います。しかも裾野が広いというか、漫画の数も漫画家の数もびっくりするくらいに多い。逆にその分ほかのエンターテイメントがしぼんでいっているんじゃないかと危惧してしまうほどです。実際テレビドラマとか、有名作品や人気作品でも脚本があきらかに弱かったりしますよね。才能ある人がみんな漫画業界に行っちゃってるんじゃないですかね。最近だとVIVANTとか、序盤はおもしろかったですけど後半は圧倒的に失速していました。こういうストーリーレベルで許される業界ってとってもぬるいと思います。きっと演者重視なのだろうと思いますけど。

例えば今日世の中に公開された漫画というだけでも200~300個はあると思いますけど(もっともっとあるかもしれませんけど)、↓これとか発想がおもしろすぎる作品だなぁとわくわくします。こういう製作者たちが小説でもテレビドラマでもウェブトゥーンでもなく漫画を選ぶから漫画業界が強いのだと思います。

https://tonarinoyj.jp/episode/2550689798374522269

 

あと、これもこの本の中でまったく語られていない論点ですけど、ウェブトゥーンが流行りそうだからという考えで参入してきた人たちの中に天才はいないと思うのですよね。なので、根付いたあとの第二世代第三世代の中から超面白い傑作ウェブトゥーンは生まれてくると思います。

どっちにしても漫画がおもしろければ漫画を読みますし小説がおもしろければ小説を読みますし、ウェブトゥーンがおもしろければウェブトゥーンを読みます。時代がどう変わっても若くて才能のある人たちを追いかけていくと思います。

ちくま新書『「いいね!」を集めるワードセンス』感想

斎藤孝『「いいね!」を集めるワードセンス』ちくま新書 2024年1月刊

 

 

今の時代は言葉のセンスがとても大事という内容の本。現代は大SNS時代ですし、良い言葉で良い文章を書ける能力は本当に大事ですよね。あって損は無い能力だと思います。もちろん人とリアルで会話するときの言葉の選び方のセンスも、いつの時代も変わらず大事だと思います。

そのワードセンスを身に付けるためにはどうすればいいかというテーマの本で、具体的な訓練方法が色々と紹介されていました。キャッチコピーをつけてみるとかあだ名とつけてみるとか。テレビ、ネット、新聞などに触れるときもワードセンスに着目しながら情報に接していくのが良い、など。訓練しないと身に付かない能力なので訓練が大事という話でした。

私も講師の仕事のときの原稿や、人に説明するときの伝え方など、ずっとあれこれ考えて、ようやく思い付いています。何も考えずに原稿がすらすら書けることはなく、良い伝え方がないものかとずっと考えているうちにひらめくという感じです。きっと芸人やギャグ漫画家の人たちは人を笑わせる表現をずっと考えているから思いつくのだろうと思いますし、私も税金やお金について人にわかりやすく伝えるということを常に考えながら仕事していかないといけないなーと思います。

私としては、この言葉のセンスという分野では太宰治が圧倒的だと思っています。高校1年生のときに太宰治の文章に感動してしまって新潮文庫をめちゃめちゃそろえました。それ以来ずっと太宰信者です。言葉のチョイスが天才的だと思います。太宰治の小説は、常に言葉選びについて考え抜いた結果ひらめいたのだろうなぁという文章が並んでいると思います。

この本の後半に色んな文豪の作品が抜粋されて紹介されていたのですが、たしかにどれもワードセンスがすばらしいなという作品ばかりでした。ちょっと普通の人には思いつかないだろうなというものばかりで、ものすごく訓練して身に着けた文章力なのだろうなと感じました。プロの中の一流の人たちはすごいなと。

ちなみに私のSNSはまったく「いいね!」を集められていません。当たり障りのないことしか書いていないです。実名ですべてオープンに書いていますけど、基本何でも好きなので、楽しかったです美味しかったですという内容になってしまうのですよね。小学生の感想文みたいな。まぁでもそれがマネタイズのコツです。

『きみのお金は誰のため』感想

田内学『きみのお金は誰のため』東洋経済新報社 2023年10月刊

 

 

永福町駅啓文堂書店で「第1位」として紹介されていたのを見てkindleで買いました。いつも思いますけどAmazonは街の本屋へ手数料を払ってもいいですよね。インフラにただ乗りしているというか。私にどうすることもできないですけど。

この本はお金や社会についての考え方の本で、お金のためではなく誰かのために働くことができればお金を単なる道具として見ることが可能になるという内容の本でした。納得感のある内容ばかりで、とても良い本でした。人を愛することが大事という最後の話も、納得でした。私も独身のときよりも結婚して子供ができた今の方がこの社会のことを真剣に考えていると思います。作中で「社会が他人事ではなくなる」という表現が使われていましたけど、その通りだなぁと思いました。

マネー本あるあるだと思いますけど、ストーリーは別に要らないというか、キャラクターの掛け合いで話が進んでいく感じに白けてしまうことがよくあります。Youtubeとかでもあるあるだと思います。作者が自分の意見を自分の口で素直に語ってくれてもいいのになーと思ってしまいます。別に技術を使おうとしなくてもいいのになーというか。でもこの本の場合は中盤くらいから気にならなくなりました。

国の借金が1000兆円あっても国から支払われた側の人たちがそのお金を持っているという視点は、なるほどと思いました。国内で支払われて国内で使われている間は問題ないわけですね。問題があるとすれば格差が起こりうるということですね。作中でも指摘されていましたけど。借金した1000兆円が一部の人に流れるようなことになってしまったら良くない。

格差の話では、お金の格差と暮らしの格差があるという話もとても納得感がありました。今は金銭的な格差はとても広がっているみたいですが、生活の豊かさの格差については広がっていないという話で、たしかにみんなが同じスマホで同じ情報を手に入れることができていますし、生活的にはみんなが豊かな社会になったと言えますね。

お金の話から社会の話へのつなげ方がスムーズで、とても読みやすい本でした。後半の贈与や愛についての話も、社会を良くするためにはという視点で語られていて、好感の持てる本でした。読後感が良かったです。