読んだ本の感想など

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浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』ネタバレ感想

浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』角川文庫 2023年5月刊

 

 

※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

顧問先の美容院の本棚にこの小説が置いてあって、ずっと気になっていました。文庫化されたら買おうと思っていました。今回ようやく文庫化されて、ついに読むことができました。

子供を保育園に預けて午前中にちょっとだけ読もうと思って読み始めたら、あまりにもおもしろくて結局午前中いっぱいかけて読破してしまいました。おもしろすぎてびっくりしました。仕事がはかどらなかった。最初から最後までほぼ一気読みでした。子供が産まれてから小説を読む時間がほぼ0になってましたので、久しぶりに小説を一気読みできて嬉しかったです。

物語の構成がうますぎました。序盤の何気ない話が後半で伏線だったと気づかされる感じは、作者天才かなと思いました。序盤はクズ人間に見えたキャラクターが終盤には気配りできて好感度の高い人間に見えてくる。これぞミステリ小説って感じの構成だったと思います。無理やりすぎる部分もありましたけど、上手すぎて素直に読めるという感じでした。

ネタバレで語ります。

スライドドアのタクシーを待ったという描写が、エリートのアラサー女子がジャパンタクシーを選んで乗っているという描写と見せかけて実は足が悪かっただけというのは完全に騙されました。私もジャパンタクシー派ですし、アラサー女子ならなおさら選べるならスライドドアのタクシーだろうということで、ちょっとした描写の中で作者のセンスすごいなぁと思いながら読んでました。単純に足が悪いことを言いたかっただけなのかホスピタリティの良さで選んでいた二重描写なのかわかりませんが、完全に騙されました。そもそもエリートサラリーマンだとしても神奈川県までタクシー往復は違和感ですよね。なるほどな~という感じでした。障害者スペースに止めていた久賀くんとか優先席に座った矢代さんとかも、最初はクズ人間描写なのかと思っていましたが、実は気配り描写だったというオチはなかなかすごかったと思います。爪楊枝を嶌さんに取らせた森久保くんだけが単純にクズ人間描写だったということでしょうか。というかそれほどクズ行為でも無いのですかね。わからないですね。なんで爪楊枝を人に取らせたのだろう。

後半から就活に対するダメ出しみたいな展開になって、そこもめちゃめちゃおもしろかったです。そう来るかと。この作者の作品って『教室が、ひとりにになるまで』なんかでも、けっこう犯人に対する共感度が高いのですよね。犯人側の思いにも感情移入できるように作られている。それがすごいなと思います。犯人の語りにパワーを感じました。優秀な人が運で就活で落ちるというのも、あるあるだろうなと思いますし。実際、誰に聞いても面接で良い人を採用する方法はわからないと言われますよね。私も面接でどうやって選べば良いかまったくわからないです。うちの事務所は結果的に親戚ばかり採用しています。

最後まで二転三転する感じとか、悪い人と見せかけて良い人で終わる感じとか、読後感がとても良かったです。一気読みで、満足度がすごかった。この作者の小説は次回作も買っていきたいですね。ちなみにこの作者が原作をしている漫画『ショーハショーテン』も買っています。正直こういう小説の方がおもしろいと思いますけど、漫画の方ももしかしたら後から二度読みしたらめちゃめちゃおもしろくなるという可能性もあるので期待しています。まだタイトルの意味も判明していないですし。