読んだ本の感想など

電車の中やカフェで読んだ本の感想などを。

『ウォーク・イン・クローゼット』ネタバレ感想

綿矢りさ『ウォーク・イン・クローゼット』ネタバレ感想 講談社文庫 2017年10月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

今月出たばかりの新作。吉祥寺パルコ地下のパルコブックセンターで購入。ここは新作コーナーが見やすくていいです。地下2階のせいか適度に空いていますし、好きな本屋ですね。

綿矢りさ作品を読んだのはたぶん数年ぶり?くらいだと思います。何冊か読んだことはありまして、文章うまい作家という認識でした。今作も文章表現が全体的に良かったと思います。「時間は有限だ。でも素敵な服は無限にある。」1行目から良い文章。さらさらと読める小説で、一気に読み終えた感じがしました。軽くて読みやすい内容というか。普段ミステリばかり読んでいるので、こういう小説もいいなと思いました。

1作目「いなか、の、すとーかー」も2作目「ウォーク・イン・クローゼット」も、どちらも続きが気になりつつすいすい読めて、最後はさわやかに終わる感じで、読みやすく読後感の良い小説でした。「いなか、の、すとーかー」の方は途中でオチが読めた感じはありましたけど、最後は主人公が本業がんばっていこうと覚悟を決めるという終わり方で、このさわやかなオチは読めなかった。「ウォーク・イン・クローゼット」の方は物語展開がはやくておもしろくて最後まで一気読みでした。オチとか無い話でしたけど、ユーヤくんが洗濯話に乗ってくれる終わり方は後味良かったですね。

1作目も2作目も、陶芸の話、洗濯の話と馴染みの無い世界の話でしたけどどちらも妙にリアル感があったのがおもしろかったです。ほんとに全然知らないので実際のところはわからないですけど。色んな世界が描かれるのが小説のおもしろさだなぁと思います。

『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』ネタバレ感想

辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』講談社文庫 2012年4月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

スロウハイツの神様に続いて、辻村深月の本を買ってみました。結構ボリュームがあって、毎日寝る前に少しずつ読んでいって、読み切るまで1週間くらいかかったと思います。正直言うと序盤~中盤くらいまではそこまで入り込める物語ではなかったと思います。終盤は一気読みでしたけど。

テーマが母娘関係なので、もともと男が読んでも共感しづらい物語なのだろうと思いますけど、主人公の母親の「虐待」の描写がさすがにフィクションっぽさが強く感じられて、あんまり主人公に対して共感できず…でした。地方社会の合コン描写や女性の生き方描写に対しても別世界すぎて共感できなかったですし。とはいえ最後どういうオチになるのだろう…という気持ちはありましたし、文章表現もうまくて、最後まで読めました。

終盤に真相が明かされていく展開も、終わり方もとても良かったです。最後はちょっと泣けました。伏線回収も無駄がなくて、美しい物語構成でした。最後に明かされたタイトルの意味も、31歳の誕生日のシーンがあったのにまったく気づきませんでした。母から娘への言葉がそのままタイトルにになっていたというオチは、とても良かったですね。

辻村深月、他のも読んでいきたいですね。文章表現がすごいうまい。寝る前に読んでいて「この人めちゃめちゃ文章いいなあ」って思ったシーンが2~3か所あったのですけど、今どこだったかなーとぱらぱら見返してみても思い出せない。

あと、このチエミという登場人物が本も読まない映画も見ないという人物だったわけですけど、ちょっと前にまさにそういうタイプの人と知り合って、流れでその人に小説や漫画をあげたのですけど(たしか『幸福な生活』と『3月のライオン』)、その人3月のライオンを読んだ感想が「これで終わりなの?」だったのですよね。当時何巻だったか忘れましたけどもちろん連載途中ですよ。というか感想それだけだったという。あれは本当にカルチャーショックというか、知らない世界を垣間見たって感じで新鮮な体験でした。別に、明るくて話おもしろくて美人でいい人なのですけど。

あ、文章うまいなって思ったところ、例えば、主人公の初潮のときの思い出シーン、母がタンスからポーチを持ってきたシーンですけど、「母の趣味ではない、三毛猫の絵が描かれていた。私の趣味でもなかったけど、私の趣味だと他人が誤解する程度には雰囲気がある、かわいい猫だった。」という文章、めちゃめちゃ良かったです。というかこのシーン、全部の文章が切れ味すごい。やっぱ他の作品も読んでいきたい作家ですね。

『消費大陸アジア』感想

川端基夫『消費大陸アジア』ちくま新書 2017年9月刊

 

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日本発の飲食や小売がアジアでどう受け入れられているか(受け入れられていないか)についての本。具体例を挙げてこれはこういう理由で中国でヒットした、などと書かれた内容の本でした。

知らない話ばかりで、読み物としておもしろかったです。ポカリスエットインドネシアで断食明けの飲料としてヒットしている、吉野家の牛丼はアジアでもアメリカでもカウンター席がうけなくてテーブル席だけにしている、味千ラーメンは豚骨スープで中国でヒットしている(これはニュースとして知っていました、いつか食べてみたいです味千ラーメン)などなど。その他には中国は医療環境が整備されていないから日本のドラッグストアの薬が爆買いされているとか、日本で受け入れられなかったフランスの大型ディスカウント店(カルフールという聞いたことない店)がタイでは小売業者の仕入れ先として受け入れられているとか。読んでいて「へぇ~へぇ~」って感じでめちゃめちゃ興味深い話ばかりでした。私はなかなか旅行に行く機会がないのですけどタイとかインドネシアとか行ってみたいですね。

あとは目の前で調理される形式の安心感がアジアで受け入れられるという話など、日本人の私にはわからない感覚でおもしろかったです。日本では奥の厨房で調理された食べ物が運ばれてきても疑う感覚なんて一切ないですし。

おもしろかったのは、アジアで受け入れられた企業も、狙ったわけではなく偶然はまって大ヒットしたケースとか、受け入れられるように適応したことによって受け入れられたケースとか、さまざまあるというところですね。もちろんどの企業も事前に現地調査をおこなっているのでしょうけど。ふたを開けてみないと…という部分がどうしてもあるということかな。おもしろいですね。

現地で商品を売るためには現地の気候や文化、宗教、所得などに合わせた「意味づけ」をするのが大事という話も説得力を感じました。例えば香港のエアコンはカビ防止機能が大事だが欧州のエアコンは暖房機能が大事、など。

物でもサービスでもこれが絶対売れるっていうのはなかなか難しいでしょうけど、売れたものにはやはりそれなりの理由があるということですね。