読んだ本の感想など

電車の中やカフェで読んだ本の感想などを。

『スロウハイツの神様』ネタバレ感想

辻村深月スロウハイツの神様』(上下巻)講談社文庫2010年1月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

ちょっと前に「辻村深月好き」「辻村深月いい」みたいな話を2人から別々に聞いたりしまして、へー読んでみようかなーと思ったので、購入してみました。辻村深月は初めて読むなぁと思っていたのですけど、『盲目的な恋と友情』というやつは結構前に読んだことがありましたね。2人の視点から描かれるミステリ風味の小説で、なかなかおもしろかった記憶がありました。

さてさて。スロウハイツの神様、上下巻でボリュームありましたけど、合わせて1週間くらいで読み切ってしまいました。特に下巻の後半は完全に一気読みでした。深夜3時くらいまでかけて。3連休だったので、がんばろうと。下巻の最終章はひたすら泣けました。下巻最終章ですべてが繋がるという物語構成が素晴らしいですし、その内容も長い年月をかけた感謝と愛の物語で、とても感動でした。なんかもう壮大さを感じました。

上巻の序盤の方を読んだときは、気取った文体とテレビドラマみたいなリアリティの無い台詞回しに対してこれはきついなぁと思ったのですけど、文体については序盤のうちに慣れました。あと、若い創作系の人たちを集めて部屋を貸すという舞台設定がまた中学生女子の願望小説みたいな感じできつかったのですけど、これもすぐに慣れました。特にきつかったのが入居希望者を面接で落とすエピソード、朗らかで明るいけどバランス考えない贈り物をしちゃうタイプだったから落とした(狩野は気づかなかったけどきちんとそこに気づくわたし)ってシーン、人がイキってる姿を見ているときのような見ていてきつい感じがありました。

上巻は登場人物紹介みたいなところもありましたしそれほど話に夢中になる感じはなかったのですが、上巻終わりの郵便物が届いて主人公が驚愕するみたいな展開、あそこはかなりわくわく感がありました。下巻おもしろくなりそうだな、と。

そして実際に下巻めちゃめちゃおもしろかったです。加々美莉々亜というキャラクターは普通にチヨダコーキファンだと思いながら読んでいたので、オチに結構びっくりしました。パクリ漫画の原作者だというのは他に該当者がいないのでそうかなーと予想してましたけど、それでも一度フェイントが入れられていておもしろかったですね。あと編集者の黒木さんも章タイトルで「創作する」とあったからこの人がパクリ犯だったのかとちょっとだまされました。この辺はおもしろいというか、上手いなぁと思いました。でも一番上手いのはこのパクリ犯騒動は物語的にはおまけだったという部分ですね。カムフラージュというか。最終章の内容こそが完全にこの小説の本題って感じで、この物語構成がとても良かったと思います。

そんなわけで最終章。めちゃめちゃ泣けました。人が死ぬ展開じゃないのにこんなに泣けるのはすごい。チヨダコーキの純愛というか感謝というかそういう心の深さに泣けるという、ちょっと人が死ぬ展開以外でこんなに泣けたことって今まであったかな…くらいのレベルで泣けてしまいました。それまで読んでいて違和感があった部分とか、これはあとで明かされるのだろうなぁという部分がすべてこの最終章できっちり語られていましたし、本当に怒涛の感動展開でした。「お久しぶりです」とか、ケーキがブランド的にコンビニで売られるはずないとか。まさかここまで環・チヨダコーキ間が繋がるとは予想できませんでした。終わり方もめちゃめちゃいいですね。数十年後も仲良さそうで。ほんと思い返しても泣けるレベルです。

ということで、やっぱおすすめされるだけあって、めちゃめちゃ良い作品でした。辻村深月はこれから他のも読んでいきたいですね。でもこのスロウハイツの神様最終章を超える感動ってあるのかな…これが辻村深月の頂点なんじゃないかって思う。いきなり最高作品を読んでしまったんじゃないか…という。

『ジェノサイド』ネタバレ感想

高野和明『ジェノサイド』(上下巻)角川文庫 2013年12月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います

 

一気読みの小説と聞いて買ってみました。名前だけは知っている小説でしたが、初めて読みました。たぶんタイトルとかあらすじとかでなんとなく敬遠していたのだと思います。こうやっておすすめだと聞かなければ読むこともなかったかもしれません。しかし読んでみると、本当にめちゃめちゃおもしろかったです。続きが気になりまくって、電車の中とかで5分でも時間があったら本を開いたり、何かの待ち時間にも本を開いたり、ちょっと時間ができたら続きを読むって感じでした。こういうのは久しぶりでしたね。下巻の最後半分は昨日の深夜2時すぎまでかけて一気読みしてしまいましたし。本当にめちゃめちゃおもしろかったです。

生きるか死ぬかという展開がずっと続くので、緊張感がすごかったです。日本の古賀研人編の方もアフリカのイェーガー編の方もはらはらどきどき展開の連続で、続きどうなるんだろうというわくわく感が最初から最後までずっとありました。なかなかこんな失速なしの長編小説もめずらしいんじゃないでしょうか。視点変更型の小説でどの視点も同じくらいおもしろいというのもすごい。

登場人物のバーンズ大統領が当時のブッシュ大統領を想定して描かれているように見えて、そこはやはりどうしても「10年前の作品」って雰囲気が出てしまってました。古臭さというか。別にそれでもめちゃめちゃおもしろかったのですけど、どうせならその当時に読みたかったですね。その方がもっともっとリアル感を味わえたかもしれない。

そういえば、なんか普段ずっとミステリばかり読んでいるせいか、最後のエピローグで物語が収束に向かうとき、綺麗に着地しそうな感じが逆に不安というか、これは逆に最後にどんでん返しが待っているのではないか…?とちょっと考えてしまいました。たとえばアキリとエマの2人が日本で出会ったらすぐに人類を一気に殺し始めるオチなんじゃないかとか。ジェノサイドが始まった…!完!みたいな。全然そんなこともなく綺麗なエンディングでしたけど。別にそれで大満足な終わり方でしたけど。

でも、このアキリの存在がとってもチートなので、最後はアキリ死亡で終わるんじゃないかという思いはありましたね。読んでいてずっと。ギャレット死亡後に穴を掘って埋葬するシーンで、アキリが「楽しげな顔をしていた。初めて見る宗教的儀式に、興味津々といった面持ちだった。」と描写されてるところとか、異質な存在って感じがめちゃめちゃ出ていてすごいおもしろかった。このアキリが最後どういうオチになるんだろう…と。結果的には生存しつつ綺麗な終わり方というか、主人公たちに対して友好的で、将来の仕事も約束するみたいな、なんかとってもハッピーエンドで終わっていて、それはそれでとても良かったです。

この作者の他の小説も読んでみたくなりました。『クレイヴディッガー』とか、前から名前を聞いたことありましたし、この機会に読んでみてもいいかもしれない。でもその前に、最近いいと教えてもらった辻村深月を読んでいきたいですね。

『縮小ニッポンの衝撃』感想

NHKスペシャル取材班『縮小ニッポンの衝撃』講談社現代新書 2017年7月刊

 

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NHKの本ということはNHKのテレビ番組で放映された内容の書籍化ということなのでしょうか。あまりその辺の事情は知らず、本屋で平積みになっているのを見かけて購入しました。文章わかりやすくて読みやすい本でした。内容は地方の過疎化について、その中でも現時点ですでにやばい町をいくつかとりあげて紹介していく、という本でした。北海道夕張市(第2章第3章)、島根県雲南市(第4章)、神奈川県横須賀市(エピローグ)など。

 その前に第1章で紹介されているのが東京都への一極集中についてです。この東京一極集中も、現状は地方でまともな仕事に就けずどうしようもなくなった人が東京へ出てきて4人部屋住み込みで日給7,500円の生活をするみたいな「ネガティブ集中」という状況になっているそうです。あとは、東京都内で単身高齢者が警備員の仕事をしているようなケース、以前は高齢になるとそれぞれ地元へ帰っていったそうですが今は家族を持たず帰る場所の無い人たちが会社の寮に住み続けて死ぬまで働き続けるみたいな状況があるようです。うーん、道路で警備の仕事している人たちとか、どの人も「こちらどうぞ~」ってすごい丁寧な仕事ぶりですけど、その中には実際こういうきつい状況の人もいるってことなのかな…。

第2章以降の地方の自治体の現状についても、北海道夕張市は行政サービスをどんどん削っていって小学校が1個しかないとか、島根県では集落が消滅していっているとか、島根県雲南市では「地域運営組織」という住民組織が行政の仕事を肩代わりしているとか、そういう話が続いています。素でびびるというか、驚いてしまう現状の話ばかりでした。今後は住宅を駅前などの1か所に集中していかなければいけないという話も出てくるのですが、スマートシティみたいな最先端的な意味合いではなく、もっと泥臭いというか暗い話で、あっちが消滅したからこっちへまとめるみたいな、本当にタイトル通り「縮小ニッポン」の姿でした。

高齢化が進行している地域や街について「島根県の姿は20年後の日本の姿だ」とか「横須賀市の姿は将来の東京都の姿だ」みたいな言い回しが本の中でありますが(他のところで「秋田県は〇年後の日本の姿だ」という言い回しも聞いたことがあります)、どうもこういう言い回しを聞くと、別に島根県秋田県横須賀市も現状で存続しているわけですし日本も何十年経っても普通に存続し続けるのかなっていうのんきな気持ちにちょっとなってしまいますね。

この高齢化問題について、最近日経新聞で何度も特集を組まれている論点として、高齢者に対する社会保障費(医療費など)をどう削るか、という話がありますよね。ここを削らなければ日本はもたない、と。この本ではこの論点は一切触れられていなかったのですけど、社会保障費をうまく削ることができれば、他のことにお金を使えるので、何とかなったりしないものかなぁと思ったりするのですけど。後期高齢者の自己負担1割を3~5割にするとか。まぁ高齢者を切り捨てるような政策をするわけにもいかないでしょうし、なかなか厳しいですかね。