読んだ本の感想など

電車の中やカフェで読んだ本の感想などを。

映画「劇場」感想

映画「劇場」公式サイト

https://gekijyo-movie.com/

 

吉祥寺アップリンクで観てきました。この作品が見たいというよりも、コロナ後の映画館へ行ってみたいという気持ちの方が強かったです。緊急事態宣言が明けてからずっと映画館へ行きたかったのですが、おもしろそうな作品がまったくやってなくって、ようやく興味の持てる作品が公開されたので行ってきた、という感じでした。

吉祥寺アップリンクへも今回で初めて行くことができました。このパルコ地下2階が本屋だったときはめちゃめちゃ通っていたのですけど。地下1階にあった治一郎カフェもよく利用していました。それが映画館に変わってから一度行きたいとずっと思っていたのですけどタイミングがなくって、コロナ後の今になってようやく行くことができました。想像してたより良かったです。そんなにごみごみしてなくって。座れるソファーもたくさんあって。映画館内の客層は、若い人が多くて、一人で来てる人が多いなと思いました。老人はコロナで外へ出られないだけかもしれませんけど。座席が1個飛ばしなのは本当に良かったですね。映画館って隣に人がいると(人次第ですけど)快適度が下がることがあるので、隣に人がいないレベルの映画を狙って見に行っていたのですよね。平日に行くとか、人気の無い作品へ行くとか。それが今後は一切気にせずどんな作品でも見に行けるようになったと言えるのかもしれません。すばらしいですね。

というわけで「劇場」めちゃめちゃ良かったです。恋愛映画って感じでしたけど、完全に男視点の恋愛映画で、めずらしいなと思いました。作者も男性みたいですね。「火花」の作者らしくて、お笑いの人らしいですけど、そのお笑いの方はよく知らないのですよね。ちなみに火花はAmazonか何かで見て、なかなかおもしろかった記憶があります。

男主人公のだめだめさをひたすら描いていく作品でしたけど、割と共感できる部分も多く、見ていて苦しかったりかわいそうだったり、そんな感じでした。自分も20代のころはこんなだったなーと思う部分も多かったです。私の場合は30歳を超えたらこういうのはなくなって、社会に対しても堂々とできるようになりました。20代のころは私も彼女の男友達の話なんかは普通に嫌だったと思います。劣等感を刺激されて苦しくなるというほどだったかどうかはわかりませんけど…。

作中でも色々な方向から語られていましたけどこの永田くんのような男はさきちゃんのような人と付き合ってもうまくいくわけがないですよね。付き合う相手は選ばないとうまくいかないタイプです。フォローできるタイプの女子とじゃないとうまくいかない。

でも永田くんは顔もスタイルもいいし、ベッドの中で手をつなごうとして先につながれたときに「まだ考えてる途中だった」と言ったり、好かれる要素はありますよね。作中でモテてるのもよくわかります。逆に、永田くん視点でさきちゃんとずっと付き合い続ける理由はいまいちよくわかりませんでした。養ってもらっていたからというのは一つの理由としてあったのでしょうけど。作中では明るさとか天真爛漫さに救われたみたいな表現がありましたけど、うーーーんって感じですね。わかると言えばわかりますけど、長く付き合う理由にはならないような気が…。そもそも、さきちゃんというキャラクター自体が記号的というか描写が薄く感じられましたけど、もともと男性視点の物語なので脇役として位置づけられてるのかなって感じました。永田くん視点でさきちゃんの内面はまったく見えていないはずなので描写するわけにもいかない、その結果キャラクターが薄くなる、みたいな。フォローや気配りのできないタイプの女子(永田くん視点で)というキャラクター設定なので、なおさらですよね。ただ、フォローや気配りをできない、しようとしない性格だからこそ、その真っ直ぐさに惹かれたという描写については、わかるような気はしました。

そういえば、小さい映画館で見たからか、無名の役者を使った小規模作品なのかなってずっと思っていたのですけど、今になって公式サイトを見て主役もヒロイン役も知ってる名前でびっくりしました。結構な大作だったのかもしれない。山崎賢人くんとか普通に知ってましたし。どおりで永田くんめちゃめちゃかっこいいと思った。みずぼらしい恰好をしていてもめちゃめちゃかっこいい。作中で才能ない人設定のはずなのに才能ありそうな人に見えました。かっこよすぎて。

小さい映画館で見たのがちょうど作中の雰囲気にも合っていて、良かったと思います。リアルでこういう劇場には一度も行ったことがないのですけど、どんなものなのか一度行ってみたくなりました。今はコロナでこんな密な劇場空間は存在しないのかもしれませんけど。下北沢が舞台の作品でしたけど、映画の全体的な雰囲気がとても下北沢っぽかったですね。なんというか、作中の舞台のすべてが下北沢っぽかった。

自転車2人乗りで桜を見に行くシーンはちょっと泣けました。感動で泣くというよりかわいそうで泣けるという感じでした。共感できる部分が多くて心揺さぶられる映画でした。劣等感を刺激されているときに相手がまったく気づいてくれないしフォローもしてくれないというあるあるなシーンが多くて、心えぐる系の映画だったなぁと思います。

新潮新書『美術展の不都合な真実』感想

古賀太『美術展の不都合な真実新潮新書 2020年5月刊

 

f:id:seoma:20200722175912j:plain

 

本屋で見かけて購入。美術館大好きなので、興味深いテーマです。美術館の入場料って高いなぁとか、人多すぎだなぁというのはよく思っていました。あと、美術館の収支ってどんな感じなのだろうかとか、顧問先に美術館があったらいいなぁとか、すごい思ってます。

個人的に今まで行った展覧会の中で良かったのは、カラヴァッジョの展覧会とミュシャの展覧会です。どちらも作品の迫力がすごくて、描いた人すごいなぁという感動がありました。国立新美術館ミュシャの展覧会はものすごい人混みで、観客としては居心地が悪かったですが、主催者は儲かりすぎて笑いがとまらないだろうなぁと思った記憶があります。ミュシャの絵を持っていたら他美術館へ貸したりするだけでこの先ずっと安泰だろうなぁと。

展覧会って基本めちゃめちゃ混んでるイメージですけど、メディアが主催して大々的に人を集めるからそうなるのだと、この本の中で書かれていました。やはり他美術館から借りてくるときに支払うレンタル料などの経費も大きくて、広告宣伝にもお金をかけてチケットを大量に売って回収するビジネスモデルだと。それは納得感がありましたね。あれだけ入場者がいるのなら経費もガンガン使えるでしょうし、一大イベントですよね。

美術館もコロナウィルスで今は大変でしょうけど、それでも都内の美術館へ行くと割と混んでいて驚きます。美術館へ行く人ってすごい多いですよね。良い作品を見るとテンション上がりますもんね。私は美術館の雰囲気自体も好きです。混んでなければ。

この本の中で推されていた東京国立近代美術館はなぜか一度も行ったことがありませんでした。今度ぜひ行ってみようと思います。意外と都内の美術館の中でもまだ行ったことがないところはあるのかもしれません。とりあえず全制覇したいですね。

個人的には目黒の庭園美術館が一番好きです。建物がかっこよい。庭園も良いですし、定期的に行きたいところです。あとは、乃木坂の国立新美術館も建物がかっこよくて好きです。トイレも各階にあるし、カフェも広くて良いです。あとは上野も好きですね。美術館や博物館がかたまっていて、公園も広くて雰囲気いいです。杉並区からだと上野はちょっと遠くて1時間近くかかってしまうのが難点なのですが、一日ゆっくり過ごせますし定期的に行きたいですね。

あと、いま横浜でやっているバンクシー展、行きたいと思いながらまだ機会がなかったのですけど、Youtuberの人の動画で紹介されていて、こんな感じなんだなぁとリアルにわかりました。普通に来場客がいる中で撮影しているのかな。完全に撮可らしくて、すごいですね。おもしろいです。

https://www.youtube.com/watch?v=zi89r

でも動画みた感じ、めちゃめちゃ混んでそうですね。やっぱり展覧会って混みますよね~。

住野よる『青くて痛くて脆い』ネタバレ感想

住野よる『青くて痛くて脆い』角川文庫 2020年6月刊

 

f:id:seoma:20200704011204j:plain

 

※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

住野よるの新刊が本屋で並んでいて、見かけた瞬間に買いました。私の一番好きな作家がこの住野よると井上真偽です。

住野よるは過去3作すべて泣けました。感情の揺さぶられ具合がすごい。

今作は、前半部分は正直それほど惹かれませんでしたけど、後半は一気読みでした。おもしろすぎて、出かけるときに本を持っていって、移動中の電車の中で読んで、ちょっとした待ち時間で読んで、飲み会の集合時間20分前に着いたからカフェに入って読んで、という感じで読破しました。最後すごい泣ける感じでしたけど、カフェの中だからさすがに涙は流せなかった。

文体が毎回すごい良いのですよね。「喜びに似ていた。」とか、一行ですごいうまいなぁと思いました。あと、弁当は温めるとべちゃべちゃになるからそのまま食べる、みたいな文章が唐突にさらっと差し込まれる感じも、すごいうまいと思います。緩急があるというか。そういう文体も好きです。

今回の主人公像も、とても良かったです。毎回思春期の不器用さを優しく丁寧に描いている感じですけど、今回の主人公の不器用さも、読んでいてうわ~となる感じがあって、とても良かったと思います。前半部分は謎な描写も多かったですけど、だからこその後半部分で青さが爆発する感じ、とても良かったですね。

ネタバレで語ります。

前半部分は主人公の目的というか行動の趣旨がよくわからない感じがあって、あまり物語に入りこめませんでした。特に共感もできなかったですし。秋好さんと死に分かれでもしたのかなという感じの描写でしたけど、明言されていないから死に別れではないのかな、とも思ったり。モアイ代表のヒロという人が最初は男なのかなって思って読んでいたら途中で女と明かされて、思えばその時点で気づいても良かったのでしょうけど、途中で秋好さんと明かされるまでまったく気づきませんでした。ここはすごいおもしろかったです。だからあいまいな感じだったのかと、納得感がありました。とってもミステリ的でしたね。こういうのはすごい好きです。

そこから先の後半部分は、ひたすらおもしろかったです。前半部分のもやもや感がまったく無くなって、すべてスムーズに読んでいくことができました。主人公が実はめちゃめちゃこだわっていたことが明かされて、それですべてつながった感じがありました。このあたりから主人公に好感を持てるようになりました。それまでちょっとよくわからない主人公って感じでしたけど。

終盤、二人が2年半ぶりに対面して会話するシーンは、とても良かったです。緊張感がすごかった。このシーンは文章もとても良かったです。主人公の青さの表現というか、二人の会話がズレながらぶつかっている感じとか、読んでいて最高でした。うわあ~っていう感じがありましたね。

社会人と大学生の描かれ方も、良かったと思います。壁があるようでいて実際は変わらないというか。そのあたりの描写には共感できました。主人公は大学4年間の終盤の方まで何も無いつまらない大学生活を送っていたのに、社会人になったあとの交流会のスピーチではしっかりしたエピソードトークをしているところとか、うまいオチだと思いました。

最後の最後はどうなるかわからない感じで終わりましたけど、これもうまい落としどころだなぁと思いました。終盤の主人公が自転車で走り回ったあとに唐突に我にかえるシーンも、すごい納得感があって良かったです。このシーンは文章の描写もすごい良かったです。