読んだ本の感想など

電車の中やカフェで読んだ本の感想などを。

『いつかの人質』ネタバレ感想

芦沢央『いつかの人質』角川文庫 2018年2月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

今年の2月に出たばかりの文庫新刊。元々でっかい本で出ていたのが文庫化されたという経緯の本のようです。本屋の新刊コーナーに並んでいるのを見て新刊が出ていることに気づいて、購入しました。

この作者の小説は文庫で出ているものはすべて買っています。かなり好きな作家ですね。キャラクターの心理描写に納得感があって、読みやすい。『罪の余白』、『今だけのあの子』、『悪いものが、来ませんように』、そしてこの『いつかの人質』が4冊目ということになるみたいです。この作者の小説は心をえぐってくる心理描写も多いですけど、今回の『いつかの人質』はその成分は少なめだったかなと思います。序盤で抽選に外れて景品もらえなくて大泣きするシーンはちょっと心にきましたけど。やっぱり『悪いものが、来ませんように』や『今だけのあの子』が、心に刺さる心理描写多めで特に良かったと思います。

さてさて。ネタバレで語りますけど、オチはなかなか予想外で驚きました。何かあるのだろうとは思って読み進めていましたけど。帯に「圧巻のラスト35ページ」とかいうネタバレが書かれてありましたし…。でもこういう叙述トリック系のオチの小説ってめちゃめちゃ好きですね。誘拐犯が女性っぽくない感じはしていましたけど、無関係の他の人の犯行オチかなーとかぼんやり思ってました。

叙述トリック系の小説であることを帯でネタバレしてしまうというのは他の作品でも普通にありますけど、私は前情報無しで読みたいタイプなのでちょっと勘弁してほしいですね…。帯は「第1位」とか「数多くの名誉ある賞」とかだけにしてほしい。その小説の中身を100%楽しみたいですし。ドラマの予告で次週のクライマックスシーンが普通に流れてるみたいな感じですよね。え、そこ流しちゃう?みたいな。ドラマってだいたい予告を見たらその週は飛ばしても問題なくストーリーがわかってしまう。きっと小説の帯やドラマの予告は、読んだとき観たときのおもしろさを高めるためではなく、なるべく多くの人に読んでもらう観てもらうためだけに作られているのでしょう。多少おもしろさが低減しようがおっけーくらいの感覚で。

なんか話がそれましたけど、ラストは愛子が人間として成長して、優奈も漫画原作として前向きな展開を予感させる終わり方でとても良かったです。いつかという言葉がダブルミーニングになって終わるラストは、うまいなぁと思いました。

映画『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2017』感想

文化庁委託事業『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2017』

http://www.vipo-ndjc.jp/

 

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web広告で存在を知って、ちょうど行けそうだったので観に行ってきました。有楽町スバル座という映画館で1週間限定で上映されていました。有楽町スバル座も初めて行ったのですけど、日比谷駅を出てすぐで、渋谷から15分くらい?で行きやすいですし、日比谷・有楽町の雰囲気も良くて、また行きたいですね。東京駅の丸の内側へも歩いて近いみたいですけど、この日は夜21時くらいになっていたので日比谷駅からすぐ帰りました。

5つの30分映画の上映と、上映後にそのうちの1つの舞台挨拶という流れだったようです。私が行ったときは「さらば、ダイヤモンド」という映画の監督・俳優さんたちの舞台挨拶の日でした。座席は完全に自由席で、3分の1くらいが埋まってる感じでした。私は真ん中の方の一番端の座席に座ったのですけど舞台挨拶があるなら前の方に座るべきだったかなとちょっと思いました。ちなみに3月1日(木)だったのですけど、映画の日?(毎月1日?)だとかで、1,100円になっていました。ただ、もともと1,200円らしいのでお得感はまったくなかったですね。

さてさて。5つの映画の感想を上映順に書いていきます。たぶん上映順は日によって変わるのだろうと思います。その日の舞台挨拶の映画が一番最後に上映されるようになっているのだと思います。

 

「トーキョーカプセル」齋藤栄美監督

これが一番おもしろかったです。30分あっという間でした。最後の終わり方も綺麗で、満足度高かった。主人公のぼんやりした雰囲気で痛々しさが中和されていて、見やすい作品でした。全体的に、負の雰囲気が柔らかく表現されていた。深夜のクラブのあとに渋谷の街をダッシュするシーンも、物語的には負から正へという転換点なのでしょうけど、劇的な感じでもなくのんびりした空気のまま物語が進行していくのがとても良かったですね。終わり方も、主人公も端っこのカプセルに泊まっていた男子も前向きな感じの結末で、良かった。

あと、カプセルホテルに一度どんなものか泊まってみたいなーと考えていたこともあったのですけど、映像で見るとめっちゃきつそうですねこれは。絶対居心地悪そうだし眠れなそう…。ロビーとか臭そう。

 

「カレーライス Curry and Rice」奥野俊作監

全編白黒の作品で、昔の大泉学園の街が舞台なのかな?と思いきやスマホみたいなのを持っていたり、謎な世界観でしたね。でもたぶん50年前とか100年前とかが舞台なのかな。謎の世界観でしたけどおもしろいと言えばおもしろかったです。

 

「もんちゃん」金晋弘監督

もんちゃん役の子の演技力が神がかってましたね。最後は釣られて泣いてしまった。ほんとにすごかったです。あとは、作中のファッションセンスがめちゃめちゃかっこよかったですね。お父さんのはさすがに上下かっこつけすぎじゃ…?って感じでしたけど、ままごと遊びをした女の子のファッションはすごい良かった。

 

「化け物と女」池田暁監督

とても不思議な雰囲気の映画でした。なんというか、4コマ漫画をそのまま実写化したみたいな? 正直途中でだれてしまって30分は長いなと思ってしまったのですが、雰囲気おもしろかったです。

 

「さらば、ダイヤモンド」中川和博監督

話は本当にべたべたな感じでしたけど、主役の人が背高くて鍛えていてかっこよかったですね。体型的にほんとにそれっぽい雰囲気があって。あとは、映像がとっても綺麗でした。野球場のホームベースからセンター方向を眺めるシーンとか、そのあとの海岸の朝焼けのシーンも、美しい映像でした。

 

という5本の映画と、そのあとの舞台挨拶で、18時15分開始で終わったのは21時くらい?でした。いまいちどういうものか知らずに観に行ったのですけど、こういう短編映画の連続も新鮮だなぁって感じでした。

有楽町スバル座という映画館も、雰囲気良かったです。空いていて、綺麗で、待合室の椅子の数も多くて。機会があればまた行きたいですね。

『羊と鋼の森』ネタバレ感想

宮下奈都『羊と鋼の森』文春文庫 2018年2月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

今どこの本屋でも最前列にずらーっと並べられている本。「本屋大賞」を取った本が文庫化されたという経緯の本らしいです。全然知らない作家さんの小説だったのですが、推されまくっていたので、つい買ってしまいました。寝る前に読み進めて3日くらいで読破しました。本屋大賞だけあって(?)おもしろかったです。すいすい読めました。普段ほぼミステリしか読まない人間なのですけどミステリ以外の小説もなかなかおもしろいものだなぁと思いました。

ピアノの調律師という職業が完全に未知の世界だったのですけど、現実にもあるのでしょうか。調律師の会社というものが成立するほど世の中のピアノの数って多いのかな。出張で修理してもらって何万円…?となるとピアノって結構お金のかかる楽器なのだろうか。部屋を防音にするのも大変そう。PCやスマホとかではなく人間の手で調整をするってのもおもしろいですね。そしてその世界の中で技術や才能の差があるというのが、知識ゼロなのでまったくぴんと来なくて、ちょっともったいない気持ちになりました。この業界のことを知っていたらもっとこの小説を楽しめたかもしれないなぁと。もし現実にも調律というものがあるなら、一度、調整前のピアノと、技術の無い人の調整後のピアノと、技術のある人の調整後のピアノを、聴き比べてみたいですね。食べ比べ飲み比べみたいに。

主人公の、ピアノや調律のことだけに一生懸命で他のことには無頓着という変人っぷりが、とても好感もてました。こういうキャラクターが作中で最後の方までずっと凡人扱いされるのがなんだか新鮮でしたね。フィクションだとこの手のキャラクターは天才型って感じだと思いますけど。コミュ障のように見えて意思をしっかり伝えられて丁寧な会話もできて、素直な性格で、凡人扱いされながら着実に成長していく、不思議な主人公像でしたね。ピアノの調律以外の日常生活シーンが描かれないせいか生活感がなくて、それも不思議な空気感に繋がっていたと思います。

最後、主人公が「外村さんの見習いになりたいです」と言われるシーンは、感慨がありました。すごくいい着地点で、壮大な物語だったなぁと思えました。