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井上真偽『ベーシックインカムの祈り』ネタバレ感想

井上真偽『ベーシックインカムの祈り』集英社文庫 2022年12月刊

 

 

※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

一番好きな作家は?と聞かれたら住野よると井上真偽と答えていたのですが、住野よるは4作目くらいから泣けなくなってしまい、井上真偽は作品がまったく出ないので、好きな作家は特にいないという状態になってしまってました。そんな井上真偽の新作ということで、めちゃめちゃ期待して購入していました。が、1つ目の短編を読んだときになんだかいまいちだなぁと思ってしまい、そこで放り投げてました。今回、仕事も子育ても楽な時期に入ってじっくり読書できるようになり、あらためてチャレンジしました。言っても井上真偽だからおもしろい部分はあるだろうと。そうしたら2つ目以降の短編は普通におもしろかったです。最後の短編まで、ずっとおもしろかった。

オチが読めなかったり二転三転したりするのがとても良かったです。有り得るレベルのSFというか。ファンタジーなオチではなく納得できる範囲内のオチばかりでした。最後のベーシックインカムの短編が一番ストーリーが二転三転しておもしろかったです。これはファンタジー要素0でしたけど、それまでの短編小説の作者が出てきたと思ったらまたオチがひねってあって。

ミステリ小説って、トリックがおもしろかったらそれだけで一定の満足度はあるのですが、それだけだとやっぱり名作とは言えないと思うのですよね。例外はありますけど。容疑者Xの献身とか、あと名前忘れましたけど若者と見せかけて老人たちの話だったやつとか妹がトカゲだったやつとか、キャラも話もおもしろくないのにトリックがおもしろすぎてそれだけで名作だったと思います。そういう一部の天才作品は置いておいて、やっぱりトリックだけではなくてキャラクターかストーリーのどちらかがおもしろくないと作品としておもしろくならないと思うのですよね。やっぱり話がおもしろくないと。というわけで、この『ベーシックインカムの祈り』は、過去作の『探偵が早すぎる』や『その可能性はすでに考えた』と比べるとキャラクターとストーリーが弱すぎて名作とは言えないと思います。トリックがおもしろくてオチが読めないので満足できる作品ではあったのですけど。過去作はもっとキャラクターや文体が魅力的だったように思います。思い出補正かもしれませんけど。

というか、この作者ってなんでこんなに作品が少ないのでしょうか。何をして生計を立てているのかな。過去作の印税だけで生きていけるのかな。だとしても過去作のようなおもしろい新作をどんどん書いてほしいのですけど。ずっと新作まだかなーと思いながら待っていたのですけど。短編集て。

最後の短編の主題がベーシックインカムだったのは、なんだか唐突すぎて逆に興味深く読めました。AIや遺伝子操作やVRやエンハンスメントのあとにベーシックインカムという並びが謎すぎました。読み終わったあとも謎だなぁという気持ちはあります。前の短編が作中作だったオチだとしても謎ですよね。窓から不特定多数にお金をばらまいたのを「まさにベーシックインカムのようにな」と言うシーンは無理やりすぎてちょっとおもしろかったです。文章にニヤリとできました。