※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。
Twitterで色々とおすすめ小説を教えてもらっていたのですが、本屋の新刊コーナーでこの本を見つけて、すぐに購入しました。そして他の本をすべて後回しにして、これを読みました。昨日の夜に深夜3時までかけて一気読みしてしまった。そして今日また軽く二度読みしてしまったという。昨日も泣けたけど今日も泣けた。
この作者の小説は『君の膵臓をたべたい』『また、同じ夢を見ていた』と読んできて、これが3作目になります。前の2作もかなり泣けましたけど、この『よるのばけもの』も本当に感動できました。前作に続いて、悲しくて泣ける系じゃなくて前向きな感動で泣ける系なのがすごい。いま井上真偽と並んで一番好きな作家ですね。
前作『また、同じ夢を見ていた』もそうだったのですけど、主人公に好感を持てて、全力で応援したくなりました。前作主人公のなっちゃんも今作主人公のあっちーも、素直でストレートに思考するけど不器用で、それでも少しずつ色々なことに気づいていって成長していく感じがとっても好感もてました。なかなかこんな良い主人公像は無いと思います。矢野さんのことを振る舞いが下手なんだと言っていたのに、その矢野さんからへったくそだなあと言われてしまうあっちーくん、ほんと良いですね。
あっちーくんの心理描写や行動にも納得感がありましたけど、他のクラスメイトたちもそれぞれの立場とそれぞれの考えがあって行動してるというのが描写されていて、世界観のリアルさ、深さを感じました。作中で描写されていない部分でもそれぞれのキャラがそれぞれの悩みを抱えながら生活しているのだろうというのが感じられました。細部まで丁寧というか、作者がこの小説に対してガチってる感じが伝わってきて、良かったですね。ハンターハンター王位継承編みたいな、脇役キャラもそれぞれの思惑があって行動している感じ。
教室内の空気や、いじめ描写、それぞれの立ち位置や行動についての描写なんかも読んでいてとても納得感がありました。リアル感があった。夜の化け物描写は完全にファンタジーでしたけど、昼の教室描写はリアル志向で、真逆でしたね。これはやっぱり昼の教室描写の方が作者の描きたかったことで、しかしそれ単体で描くと重たくなってしまうからファンタジー要素を追加した、みたいな流れなのでしょうか。夜の顔と昼の顔という設定のときに、夜がファンタジー設定だったので楽に読めたという部分はあったと思います。振れ幅が大きくて。最初がファンタ―描写から始まる小説だったから、教室内空気の描かれ方がとても丁寧なのが、読んでいて落差を感じて、驚いてしまいました。なんていうか、思うところがあって書いているという作者のパワーを感じました。それでいて重苦しくもなく、最後まですいすい読めました。夜の顔と昼の顔どっちがほんとうなのかという問いかけも、最初はファンタジー的な意味合いでの問いかけから始まって、最後は人間としての深い部分の問いかけになるという、とてもうまい構成だったと思います。
もうこの小説の良いところはひたすら語れるのですけど、文章もとても読みやすくて最高でした。会話文も地の文も変に気取ったところがなくって、ストレートで読みやすくて、情景が思い浮かぶ感じ。文体のセンスがとても良いと思います。なかなかこういう文体で書ける作家さんって少ないと思うのですけど、こういうストレートでリアル感を追求する感じの文体が一番好きですね。現代的で、一番かっこいいと思います。
緑川双葉というキャラクターも、最初は単なる脇役と思いましたけど、まぁ脇役ではありましたけど、矢野さんの元親友で矢野さんのために上靴をぼろぼろにしたり野球部の部室を壊したり、それをあっちーくんはまったく気づかないけど矢野さんはすべて気づいているという、作中で描かれていないところでもドラマがある感じがとてもおもしろかったですね。それぞれの思惑があって行動してる感じ。緑川双葉視点であっちーとは会話を続けたがっているような描写もありましたし、いつかみんな仲良くなる未来もあるのかなと想像できますね。あっちーくん以外のキャラはみんな基本的に見ていないようでよく見ているというか、あっちーくん視点なのでそういう構造になるのも当たり前でもちろん実はそれぞれ知らないことばかりなのでしょうけど、それで、周りからあっちーくんはフラットな視点で物事を見ることのできる人物と思われていて1対1で信頼して話してもらえるという位置づけになっていたのも、あっちーくんの心理描写や不器用で素直な行動描写から納得感がありました。これは好かれるだろうなと。
この作品についてはめっちゃ語れる。
最後の終わり方は本当に泣けました。おはようからのやっと会えたねという流れ。あっちーくん&矢野さんには幸せになってほしいですね。応援したくなる系のキャラクターだったと思います。
この作者は次の作品も出たら即買おうと思います。