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芦沢央『許されようとは思いません』ネタバレ感想

芦沢央『許されようとは思いません』新潮文庫 2019年6月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

今月出たばかりの新刊ですね。今月に入ってから仕事が少し忙しくなってきて、寝る前に小説を読む時間があまり取れてませんでした。でもこの小説は3~4日くらいで一気に読み切ることができました。めちゃめちゃおもしろかったです。短編集なので1つ読み終えたら寝る、みたいにできたのも良かったです。

この作者の小説は毎回心にくる系の描写が多いのですけど、今作もかなり響く描写が多かったと思います。最初の「目撃者はいなかった」の主人公が逃げ続けていく描写もありえそうな感じが出ていて、引き込まれました。かなりおもしろかったです。最後どういうオチになっても主人公がかわいそうで終わるのだろうなーと思って読んでいたら、無実を証明するために警察に証言することになるという展開で、これはかなり秀逸なオチだったと思います。オチがうますぎてかわいそうな気分にも嫌な気分にもならなかった。ただなるほどそうくるか上手いな~という読後感でした。この話はほんとオチまでの流れがすごかったと思います。

次の「ありがとう、ばあば」も、ばあばの教育の面倒くささ、うざさが絶妙に描写されていて、ほんとにうまいと思いました。これはうざいなぁというところを絶妙についてくる感じ。ばあばも母も子供心を無視した教育方針で、でもあるあるな感じで、読んでいて心に響くものがありました。「もちゅうってなに?」に対して「何でもすぐ訊かないで自分で調べなさいって、ばあばいつも言ってるでしょう」と返答する感じとか、本当に絶妙にうざくて、うまいなぁと思いました。この作者はいつもこういう描写がうまいですね。しかもこの台詞がオチへつながっているのがまたおもしろい。あと、杏がサイコパス系だったので変な教育のせいで精神を歪められた的なかわいそうな話ではなかったのがまた良いですね。この教育のせいで誰も犠牲になってないというか。結果としてそういう構図になるのがとてもうまいと思いました。大人の教育方針によって子供が犠牲になるみたいな展開は話としてかわいそうすぎますし。

最後の「許されようとは思いません」もオチがとても良かったです。いままでちょっと嫌な感じにひねったというかサイコパス的なオチが続いていた中で、まさかのプロポーズオチという。幸せなエンディングで、最後の話にふさわしかったと思います。

やっぱりこの作者の小説は毎回とてもおもしろいですね。人間関係のあるある描写が心に響くものが多い。それに加えて今作は物語の構造的にもおもしろいものが多くて、完成度が高い作品だったと思います。

次の作品も楽しみですね。これからも出たら買っていこうと思います。