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井上真偽『聖女の毒杯』ネタバレ感想

井上真偽『聖女の毒杯』講談社文庫 2018年7月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

『その可能性はすでに考えた』シリーズの2作目。いつの間にか文庫版が出ていました。Twitterで教えてもらって購入。以前に大きいサイズの本で読んでいたので二度読みということになりましたけど、それでもやっぱりめちゃめちゃおもしろかったです。

ちなみに吉祥寺パルコの地下のパルコブックセンターで購入したのですけど、パルコブックセンターは2018年7月で閉店してしまいましたね…。代わりに映画館になるらしい。パルコブックセンター今までめっちゃ通ってきたのですけど、この小説が私の最後の買い物でした。

さてさて。 この作者の小説はちょっと言い回しが中二っぽいというかオタクっぽいというかダサいことがあるのが欠点なのですけど(特に初期の作品)、この作品のころになるとそれがだいぶ薄まってきているので、素直に読める文体になっています。なので私はこの作品が一番好きかもしれません。井上真偽作品の中で。人に薦めるならやっぱり『探偵が早すぎる』ですけど。

 ネタバレで語りますけど、『聖女の毒杯』は一作目の『その可能性はすでに考えた』よりも事件がわかりやすくて、それぞれの説もトリックもスムーズに理解できました。たぶん物語の展開とオチの妥当さや美しさは一作目の方が上だったと思いますけど、読みやすさとわかりやすさは全然こっちの方が上だと思います。

探偵が奇跡を主張する立場という設定の都合上、最後は必ず探偵の意見が間違ってましたというオチで終わるわけですけど、それが一作目はそもそも嘘をつかれていたというオチだったのが今作では単純に見落としていたというオチでした。ここがやっぱり、うーーんって感じる部分でしたね。しかも読者視点だと花嫁の父親の「すまん」という台詞がずっと未回収の伏線になっていたので花親の父親が絡んでこない説はすべて間違いだと推測できてしまうという。一作目なんかは過去の出来事でしたし依頼人が嘘をついてましたオチだったので探偵が間違えたのもしゃーないって感じがあったのですけど。むしろ一作目のオチが唯一の落としどころだろうって気もしますよね。探偵の株を下げずに奇跡は無かったオチにするためには。

とはいえ読んでいる途中はめちゃめちゃおもしろかったです。読者視点だと父親の犯行(&自殺)なのかなーって感じなのですけど、それだと花嫁のヒ素を使って花嫁が犯人だと疑われる状況を作るのがおかしいというのは、なるほどたしかに…って感じでした。一つ一つ説をあげていって、これはこういう理由でおかしいと一つ一つ否定していく、この流れは本当に毎回めちゃめちゃおもしろいですね。特に今作は説の多さも良かったです。全部否定されたと思ったらまた新しい説が出てくる、みたいな展開はやっぱりわくわく感がありますね。