読んだ本の感想など

電車の中やカフェで読んだ本の感想などを。

『羊と鋼の森』ネタバレ感想

宮下奈都『羊と鋼の森』文春文庫 2018年2月刊

 

f:id:seoma:20180225004941j:plain

 

※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

今どこの本屋でも最前列にずらーっと並べられている本。「本屋大賞」を取った本が文庫化されたという経緯の本らしいです。全然知らない作家さんの小説だったのですが、推されまくっていたので、つい買ってしまいました。寝る前に読み進めて3日くらいで読破しました。本屋大賞だけあって(?)おもしろかったです。すいすい読めました。普段ほぼミステリしか読まない人間なのですけどミステリ以外の小説もなかなかおもしろいものだなぁと思いました。

ピアノの調律師という職業が完全に未知の世界だったのですけど、現実にもあるのでしょうか。調律師の会社というものが成立するほど世の中のピアノの数って多いのかな。出張で修理してもらって何万円…?となるとピアノって結構お金のかかる楽器なのだろうか。部屋を防音にするのも大変そう。PCやスマホとかではなく人間の手で調整をするってのもおもしろいですね。そしてその世界の中で技術や才能の差があるというのが、知識ゼロなのでまったくぴんと来なくて、ちょっともったいない気持ちになりました。この業界のことを知っていたらもっとこの小説を楽しめたかもしれないなぁと。もし現実にも調律というものがあるなら、一度、調整前のピアノと、技術の無い人の調整後のピアノと、技術のある人の調整後のピアノを、聴き比べてみたいですね。食べ比べ飲み比べみたいに。

主人公の、ピアノや調律のことだけに一生懸命で他のことには無頓着という変人っぷりが、とても好感もてました。こういうキャラクターが作中で最後の方までずっと凡人扱いされるのがなんだか新鮮でしたね。フィクションだとこの手のキャラクターは天才型って感じだと思いますけど。コミュ障のように見えて意思をしっかり伝えられて丁寧な会話もできて、素直な性格で、凡人扱いされながら着実に成長していく、不思議な主人公像でしたね。ピアノの調律以外の日常生活シーンが描かれないせいか生活感がなくて、それも不思議な空気感に繋がっていたと思います。

最後、主人公が「外村さんの見習いになりたいです」と言われるシーンは、感慨がありました。すごくいい着地点で、壮大な物語だったなぁと思えました。