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『武道館』ネタバレ感想

朝井リョウ『武道館』文藝春秋 2015年4月

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

武道館といえばアイドル、アイドルといえば武道館、これほどアイドルの小説にふさわしいタイトルも無いと思います。でも作中で武道館が本来の武道の目的でもしっかり使われているという配慮(?)もありましたね。全体的に読みやすい文体で、話のテンポも良く、昨晩だけで一気に読み切ってしまいました。寝る前の0時くらいから読み始めて、読み終わったときは2時半~3時くらいになっていたと思います。この作者の小説は『何者』だけ読んだことがありますけど、ストーリーも文体もおもしろくって、一気読みだった記憶があります。あれも心をえぐる系の話でしたけど、この『武道館』もなかなか心をえぐってくるエモい小説でした。あと、『何者』でも思いましたけど、リアル感がすごいですね。ファンタジー設定の中での、居そうな感じ、ありそうな感じがすごいうまい。中盤くらいの大地くんのソフトクリームの話とか、何を言っているのかわからない感じ、拙い説明になってしまう感じ、そういうところにとても男子高校生っぽいリアルさを感じました。

この「NEXT YOU」という架空のアイドルグループも、ありそうな感じでしっかり作られていてすごいなと思いました。ありそうなというか、現実の色々なアイドルグループで実際ある話を組み合わせているというか。それぞれのメンバーのキャラ設定だけじゃなくて、曲の設定や口上まで考えられていて、架空のアイドルをここまで作りこんだのはすごいなぁと思います。そこから、卒業、炎上、スキャンダル、握手券商法、ブレイクまでの過程、そして武道館と、ものすごく盛り込まれていて、話がどんどん進んでいってテンポが良かったですね。エンターテイメントって感じでした。

ネタバレで語りますけど、中盤~終盤くらいの「これからは、俺一人だけに送ってこいよ」のシーンは泣けました。この大地くんがいい人すぎて、めちゃめちゃ良かったですね。あとは終盤の、るりかちゃん(やはりるりかという名前は最年少メンバーのものなのか)のシーン、アイドルだから一線引いて友達も作らないとか、それでいて人気は負けているとか、心をえぐってきますね。でも「ぼちドル様」という単語はおもしろかった。こういうオリジナル単語がものすごくそれっぽいのがほんとにこの作者のすごいところだと思います。

 あとは、アイドルは偶像でもあり人間でもあるという作者の考え方がとても健全で好感を持てました。真っ向から「恋愛禁止」を否定するわけでもなく。人間として、自分で人生を選択していく、主体性を持った存在だという位置づけ。それでありながら主人公の愛子は高校生なのに中学生くらいの素朴さ・純粋さを持ったキャラ設定であるところがまたバランスのいい小説だと思います。