読んだ本の感想など

電車の中やカフェで読んだ本の感想などを。

『なんでその価格で売れちゃうの』感想

永井孝尚『なんで、その価格で売れちゃうの?』PHP新書 2018年11月刊

 

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タイトルと表紙だけ見たら微妙そうな本ですが…。でも読んでみたらおもしろくてわかりやすくて、良い本でした。

物の値段について色々な事例が紹介された本。安く売っても利益をしっかり出しているお店の話や、高い値段をつけてもどんどん売れているお店の話などなど。基本無料サービスにしてトータルで利益を出している会社の話や、売るではなく貸すという商売の話なども。紹介される事例の数が多く、しかも読んでいてなるほどと思えるような事例ばかりで、おもしろかったです。

私は開業して2年目に入った税理士事務所なのですが、正直値段については安すぎるかなーと思えるぐらいの設定にしています。お客さまゼロからのスタートでしたので、とにかく仕事がほしくて同業他社よりも安く設定していました。でも今2年目に入り、ここ何ヶ月間かは毎月2件くらいずつ顧問先が増えてきていますので、そろそろ値段を同業他社と同じくらいに引き上げようかなーという感じです。将来的には駅前のオフィスビルにかっこいいオフィスをかまえて複数の会計士・税理士で「〇〇税理士法人」みたいな会社名にして、同業他社よりも高い価格設定にしていきたいです。事務員のような方々も雇って、簡単な仕事は仕組み化マニュアル化して誰がどの仕事でもできるような状況にしておいて、テキトーに出社して仕事の山の中から1個取って好きな時間だけ仕事してテキトーに退社してもらう。まぁそれはいいとして。

正直仕事が楽しすぎてとにかく色んな業界の色んな会社や個人を見ていきたいというだけの気持ちなので値段は何でもいいといえば何でもいいのですけど、毎日飲み会でお金もかかりますし、広くて綺麗なオフィスにしたいですし、結婚もしたいですし、そうすると多少は稼いでいかないといけない。今は売り手市場なので値段をあげても変わらず仕事はくると思いますけど10年後20年後もそうとはかぎらないですし(いや10年後はまだ相続の仕事で安泰かな)、やはりただ値段を上げてそれだけじゃなくて、ストーリーというか根拠というか、そういうものが必要なのだろうと思います。税理士事務所にも。ちなみに私の場合は他の税理士の先生方から仕事をまわしてもらったりヘルプで入ったりが収入源になっているという現状もありますので、そのあたりの値段設定はまた特殊な話なのかもしれません。あんまりべらべら言うとよくない話かもしれませんが。

まぁまぁ。そうやって自分の商売の値段設定の話なんかとも結びつけて考えたりもできて、この本は読んでよかったなぁと思います。

松岡圭祐『マジシャン 最終版』ネタバレ感想

松岡圭祐『マジシャン 最終版』角川文庫 2018年9月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

万能鑑定士の人の小説。特におすすめされたわけではないですけど、こういうのが出てるみたいに言われて、買ってみました。まぁまぁおもしろかったって感じでした。読みやすくて2~3日で読破できました。

万能鑑定士は昔かなり好きで、途中まで買い続けていました。さすがにシリーズが長く続いてるうちに冗長に感じてきて買わなくっていったのですけど、いつの間にか完結していたみたいですね。最初のハイパーインフレが一番おもしろかった印象かなー。

そういえば万能鑑定士は死人が出ないミステリでしたけど、この『マジシャン』は普通に殺人事件が起こって、なんだか新鮮な感じがありました。そういうのありなんだ?というか。

マジックの小ネタがおもしろかったですね。6本目の指とか。すり替えるトリックとか。作中で色んなマジックがどんどん出てくるので飽きずに読めた感じでした。

万能鑑定士もそうでしたけど、ものすごくノリが古いというか、作者これ絶対50代とか60代とかだろうなーって感じなのですよね。別にそれが悪いというわけではないのですけど、私が50代とか60代とかになったら共感できて楽しく読める作品なのかなーとは思いますよね。

冲方丁『十二人の死にたい子どもたち』ネタバレ感想

冲方丁『十二人の死にたい子どもたち』文春文庫 2018年10月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

先月の新刊ですね。本屋の新刊コーナーに並んでいたのは見かけていました。Twitterでおもしろいとすすめられて、購入してみました。これはめちゃめちゃおもしろかったです。全然知らない作家の知らない小説でしたので、すすめられてなかったら買ってなかっただろうなと思います。うぶかたとうと読むらしいですね。歴史小説?とかの人らしい。あとSF小説とか? 読み終わったあと教えてもらいましたけど。こういう感じのミステリ系の小説が他にもあるならぜひ読んでみたかったですけど、歴史小説かぁぁ…。

さてさて。序盤はキャラクターを覚えるパートって感じでしたけど、中盤以降はめちゃめちゃおもしろかったです。途中からパズルみたいに頭を使う系の展開になってきて、1番から12番まで誰が誰だか振り返り確認しながら読んでいく必要がありました。6と7のメイコとアンリとか8~10あたりが何番だったかな…ってなりましたね。でもこういう頭使いながら読むタイプの小説はかなり好きです。

来年1月に映画化されるようで、公式サイトでビジュアルが公開されていますけど、割と全員イメージ通りですね。シンジロウは病気で髪の毛が無い設定だったと思いますけど映画ではカツラ設定なのかな。それくらいで、他はどのキャラクターか見ただけですぐわかる。なかなかすごいです。アンリのビジュアルとか、予告動画のメイコの「あなたなんじゃないんですか?」の言い方とか、完全にイメージ通りでした。

 

映画『十二人の死にたい子どもたち』オフィシャルサイト

http://wwws.warnerbros.co.jp/shinitai12/

 

あとはネタバレで語ります。

意外性のある展開&オチでしたけど、読み返したときにユキの主観パートの文章表現なんかはずるいなあと思ってしまいました。さすがに不自然すぎるというか。自分が車椅子を押してきたお兄さんが裸足で引きずられていくのを見ながらこの心情描写ってのは…。さすがにこれは犯人を隠すために描写が不自然になりすぎてるんじゃないかと。そう思いました。読み返したときに「おお~初見では気づかなかったけど伏線がはってある…!」みたいなのを期待したのですけど。

文体が、他の小説であまり見かけない感じの文体で、第三者視点の柔らかい文体というか、とても良かったと思います。地の文で「〇〇は〇〇〇と感じたようだ」みたいな言い回しが出てくる感じ。「〇〇は〇〇〇と感じた」ではなく。不思議な雰囲気で、おもしろかったですね。好感の持てる文体というか。設定やキャラクターはファンタジーよりだったと思いますけど、この文体のおかげで素直に世界観に入り込めてすいすい読めたのだと思います。作者の他の作品が時代小説(?)じゃなかったら順番に読んでいきたかったところでしたね。

最後のオチが予想外に前向きで、最高におもしろかったです。最初から自殺させないつもりだったとは。ここに関しては読み返したらすべてそう見えるように描かれていましたね。実行賛成に手を挙げてなかったり。

ラストはなんだかこのあとみんな仲良く幸せな人生を生きていきそうな雰囲気で、心温まる感じというか、読後感がとても良かったですね。サトシとアンリについても、これはこれで生きる目標ができている感じで。最後の2人の「あと何回かできそうね」という会話はとても良かった。最後に対アンリでみんなの気持ちが一致するという展開もとてもおもしろかったです。

12個のすべての数字を箱に戻して終わりというのも、とても美しい終わり方だったと思います。