読んだ本の感想など

電車の中やカフェで読んだ本の感想などを。

映画『ピンカートンに会いにいく』感想

映画『ピンカートンに会いにいく』公式サイト

http://www.pinkerton-movie.com/

 

ドラマ『賭ケグルイ』4話の神演技の人が出てる映画ということで興味を持った映画。ちょうど主演の人と監督がトークイベントをするということで、それならその回で観てみようと思って、行ってきました。新宿武蔵野館という映画館だけで上映されている映画だったのですが、その新宿武蔵野館という映画館も初めて行きました。新宿駅東口を出てすぐ、すごい良い場所にある映画館でした。

前日の昼くらいにチケットを購入したときは前の2列くらいだけ埋まってる状態だったのですが、当日行ってみたら満席でした。というかトークイベントがあると前の列から埋まるものなのですね、そこも新鮮でした。あと、老人率の異様な高さ。客層がほんとびっくりするくらいに年配者が多かったです。ここ5年くらい観に行った映画の中で一番年齢層が高かったですね。これはまじでびっくりしました。というか理由がわからないです。主役がアラフォー女性の映画ってこんなものなのでしょうか。割とまじめな話、周りから加齢臭がすごくって、物理的にきつい環境でした。館内の温度設定も異様に高くって暑いし。上映が終わってトークイベントに入ったらエアコンが効いて涼しくなりましたけど。やっぱり映画館側としては客より女優さんや監督さんたちの体調が優先なのかな。

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トークイベントの最後の撮可タイム。左から監督の坂下雄一郎さん、主演の優子役の内田慈さん、アイドル時代の優子役の小川あんさん。というか手前のソフトバンク頭の人の存在感。他の映画で見たことない客層でした。というか今まで私が観てきた映画が若者向けばかりだったということなのかもしれません。映画という娯楽の奥深さを感じてしまいましたね。あと、主演女優の方、スクリーンの中では「おばちゃん」って感じの演技だったのですけど目の前で話してるのを眺めたらすごくかわいい美人さんでした。

さてさて。映画の内容は、めちゃめちゃおもしろかったです。全体的にコメディノリで、台詞回しがニヤリと笑えるものばかりで、物語のテンポも良くて最初から最後まで失速無しで一気でした。最後、エンディングロールで出演俳優の紹介に入ったとき、もう終わりか~はやいな~って思いました。いま調べてみたら86分の映画だったのですね。実際に短い時間だったというのもあったようでした。映画前にCMや映画泥棒なども一切無しで映画本編だけの上映でしたし。

アイドルが20年後に再結成というストーリー自体よりも、5人それぞれのキャラクター設定や見せ方や話のテンポの良さがおもしろかったですね。それぞれの演技もめちゃめちゃうまかったですし、大人役と子供役がほんと似ていてぱっと理解できるのもすごかった。よく集めたなあって思います。松本さん役の2人もほんとに同じ人物の20年後なんじゃないかってくらい似ていましたね。

物語の見せ方が、1から10まで説明するわけではなく匂わす系というかほのめかす系で、それも例えば1~3まで説明するとき1 → 他のシーン → 2 → 他のシーン → 3みたいな見せ方で、それがとてもおもしろかったです。ぽんぽんシーンが変わってテンポよく感じられましたし。例えば最初のシーン(優子→葵のお皿入れ替え)と最後のシーン(葵→優子のお皿入れ替え)の対比とか、最後の最後で最初のシーンの意味がわかる感じ、すごく良い終わり方だと思います。5人仲良さそうにしているシーンから始まるというのもおもしろかったですね。最後ああなるとわかっているので途中見ていて安心感があってコメディに集中できる感じがしましたし。

あと、上映後のトークイベントもおもしろかったです。暑い時期の撮影で大変だった話や、監督も演者も最初は探りながらスタートするという話や、完成した自分の映画は最初の1回しか見ないという監督の話などでした。他には、小川あんさんが作中の優子同士が会話するシーンで「そういえば監督あれは大人優子の中にある優子像が現れたものなのか、20年前の優子そのものなのか」と監督に質問して監督が「それはどちらと決めてなくていいと思います」と答えたり。上映後に製作者側の人たちの話を聞けるというのは新鮮で、楽しかったですね。

『がん消滅の罠』ネタバレ感想

岩木一麻『がん消滅の罠 完全寛解の謎』宝島社文庫 2018年1月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

今どの本屋でも一番目立つ場所に平積みにされている本。もともとでっかいやつで出版されていたのが文庫になったようです。「このミステリーがすごい」大賞らしい。寝る前にこつこつと、3~4日くらいで読破しました。これは大賞だけあって(?)なかなかおもしろかったです。

この小説、読んでいて思いましたけど登場人物の外見描写が少なくって、どういう人物像なのかイメージがつきにくい。あえてということでしょうか。どうとでも想像してください、みたいな? あるいは重要な要素ではないのでさらっと流す、みたいな? 読んでいる途中で「あ、このキャラこういう人物だったのか」みたいに思ったことが何度かありました。 それはそれでおもしろかったですね。

ネタバレで語りますけど、他人のがんを移していただけなので何もしなければ拒絶されて勝手にがんが消えるというオチ、この分野の知識がないので現実に可能な話なのかファンタジーなのかまったくわからなくて、驚くべき話なのか順当な話なのか判別つかず、反応に困るというか、変な感じでした。ふーんというか。だから何?というほどでもなく。逆にその分野の知識があれば楽しめるというわけでも無いのでしょうけど。例えば私はこの本と同じ「このミステリーがすごい」大賞の『ブラックヴィーナス』という小説をむかし読んだことがありますけど、投資の話が出てくる小説で、ファンタジー度が強すぎると感じてしまっていまいち世界観に入り込めませんでした。お金の話は自分の専門分野なので、ちょっとしたことでどうしても嘘くささを感じてしまう。

終盤~ラストまでの展開はめちゃめちゃおもしろかったです。事務局長が部屋から出てきたとき西條先生と似ていて見間違えたとかの伏線も最後にすべて回収されて、とてもすっきり感のあるラストでした。後半は一気読みでした。

『武道館』ネタバレ感想

朝井リョウ『武道館』文藝春秋 2015年4月

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

武道館といえばアイドル、アイドルといえば武道館、これほどアイドルの小説にふさわしいタイトルも無いと思います。でも作中で武道館が本来の武道の目的でもしっかり使われているという配慮(?)もありましたね。全体的に読みやすい文体で、話のテンポも良く、昨晩だけで一気に読み切ってしまいました。寝る前の0時くらいから読み始めて、読み終わったときは2時半~3時くらいになっていたと思います。この作者の小説は『何者』だけ読んだことがありますけど、ストーリーも文体もおもしろくって、一気読みだった記憶があります。あれも心をえぐる系の話でしたけど、この『武道館』もなかなか心をえぐってくるエモい小説でした。あと、『何者』でも思いましたけど、リアル感がすごいですね。ファンタジー設定の中での、居そうな感じ、ありそうな感じがすごいうまい。中盤くらいの大地くんのソフトクリームの話とか、何を言っているのかわからない感じ、拙い説明になってしまう感じ、そういうところにとても男子高校生っぽいリアルさを感じました。

この「NEXT YOU」という架空のアイドルグループも、ありそうな感じでしっかり作られていてすごいなと思いました。ありそうなというか、現実の色々なアイドルグループで実際ある話を組み合わせているというか。それぞれのメンバーのキャラ設定だけじゃなくて、曲の設定や口上まで考えられていて、架空のアイドルをここまで作りこんだのはすごいなぁと思います。そこから、卒業、炎上、スキャンダル、握手券商法、ブレイクまでの過程、そして武道館と、ものすごく盛り込まれていて、話がどんどん進んでいってテンポが良かったですね。エンターテイメントって感じでした。

ネタバレで語りますけど、中盤~終盤くらいの「これからは、俺一人だけに送ってこいよ」のシーンは泣けました。この大地くんがいい人すぎて、めちゃめちゃ良かったですね。あとは終盤の、るりかちゃん(やはりるりかという名前は最年少メンバーのものなのか)のシーン、アイドルだから一線引いて友達も作らないとか、それでいて人気は負けているとか、心をえぐってきますね。でも「ぼちドル様」という単語はおもしろかった。こういうオリジナル単語がものすごくそれっぽいのがほんとにこの作者のすごいところだと思います。

 あとは、アイドルは偶像でもあり人間でもあるという作者の考え方がとても健全で好感を持てました。真っ向から「恋愛禁止」を否定するわけでもなく。人間として、自分で人生を選択していく、主体性を持った存在だという位置づけ。それでありながら主人公の愛子は高校生なのに中学生くらいの素朴さ・純粋さを持ったキャラ設定であるところがまたバランスのいい小説だと思います。