読んだ本の感想など

電車の中やカフェで読んだ本の感想などを。

『がん消滅の罠』ネタバレ感想

岩木一麻『がん消滅の罠 完全寛解の謎』宝島社文庫 2018年1月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

今どの本屋でも一番目立つ場所に平積みにされている本。もともとでっかいやつで出版されていたのが文庫になったようです。「このミステリーがすごい」大賞らしい。寝る前にこつこつと、3~4日くらいで読破しました。これは大賞だけあって(?)なかなかおもしろかったです。

この小説、読んでいて思いましたけど登場人物の外見描写が少なくって、どういう人物像なのかイメージがつきにくい。あえてということでしょうか。どうとでも想像してください、みたいな? あるいは重要な要素ではないのでさらっと流す、みたいな? 読んでいる途中で「あ、このキャラこういう人物だったのか」みたいに思ったことが何度かありました。 それはそれでおもしろかったですね。

ネタバレで語りますけど、他人のがんを移していただけなので何もしなければ拒絶されて勝手にがんが消えるというオチ、この分野の知識がないので現実に可能な話なのかファンタジーなのかまったくわからなくて、驚くべき話なのか順当な話なのか判別つかず、反応に困るというか、変な感じでした。ふーんというか。だから何?というほどでもなく。逆にその分野の知識があれば楽しめるというわけでも無いのでしょうけど。例えば私はこの本と同じ「このミステリーがすごい」大賞の『ブラックヴィーナス』という小説をむかし読んだことがありますけど、投資の話が出てくる小説で、ファンタジー度が強すぎると感じてしまっていまいち世界観に入り込めませんでした。お金の話は自分の専門分野なので、ちょっとしたことでどうしても嘘くささを感じてしまう。

終盤~ラストまでの展開はめちゃめちゃおもしろかったです。事務局長が部屋から出てきたとき西條先生と似ていて見間違えたとかの伏線も最後にすべて回収されて、とてもすっきり感のあるラストでした。後半は一気読みでした。

『武道館』ネタバレ感想

朝井リョウ『武道館』文藝春秋 2015年4月

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

武道館といえばアイドル、アイドルといえば武道館、これほどアイドルの小説にふさわしいタイトルも無いと思います。でも作中で武道館が本来の武道の目的でもしっかり使われているという配慮(?)もありましたね。全体的に読みやすい文体で、話のテンポも良く、昨晩だけで一気に読み切ってしまいました。寝る前の0時くらいから読み始めて、読み終わったときは2時半~3時くらいになっていたと思います。この作者の小説は『何者』だけ読んだことがありますけど、ストーリーも文体もおもしろくって、一気読みだった記憶があります。あれも心をえぐる系の話でしたけど、この『武道館』もなかなか心をえぐってくるエモい小説でした。あと、『何者』でも思いましたけど、リアル感がすごいですね。ファンタジー設定の中での、居そうな感じ、ありそうな感じがすごいうまい。中盤くらいの大地くんのソフトクリームの話とか、何を言っているのかわからない感じ、拙い説明になってしまう感じ、そういうところにとても男子高校生っぽいリアルさを感じました。

この「NEXT YOU」という架空のアイドルグループも、ありそうな感じでしっかり作られていてすごいなと思いました。ありそうなというか、現実の色々なアイドルグループで実際ある話を組み合わせているというか。それぞれのメンバーのキャラ設定だけじゃなくて、曲の設定や口上まで考えられていて、架空のアイドルをここまで作りこんだのはすごいなぁと思います。そこから、卒業、炎上、スキャンダル、握手券商法、ブレイクまでの過程、そして武道館と、ものすごく盛り込まれていて、話がどんどん進んでいってテンポが良かったですね。エンターテイメントって感じでした。

ネタバレで語りますけど、中盤~終盤くらいの「これからは、俺一人だけに送ってこいよ」のシーンは泣けました。この大地くんがいい人すぎて、めちゃめちゃ良かったですね。あとは終盤の、るりかちゃん(やはりるりかという名前は最年少メンバーのものなのか)のシーン、アイドルだから一線引いて友達も作らないとか、それでいて人気は負けているとか、心をえぐってきますね。でも「ぼちドル様」という単語はおもしろかった。こういうオリジナル単語がものすごくそれっぽいのがほんとにこの作者のすごいところだと思います。

 あとは、アイドルは偶像でもあり人間でもあるという作者の考え方がとても健全で好感を持てました。真っ向から「恋愛禁止」を否定するわけでもなく。人間として、自分で人生を選択していく、主体性を持った存在だという位置づけ。それでありながら主人公の愛子は高校生なのに中学生くらいの素朴さ・純粋さを持ったキャラ設定であるところがまたバランスのいい小説だと思います。

『アルバトロスは羽ばたかない』ネタバレ感想

七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』創元推理文庫 2017年11月刊

 

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※小説の感想はすべてネタバレ有りで書いていこうと思います。

 

発売されたばかりの文庫本でしたが、2010年の小説の文庫化ということみたいです。前作『七つの海を照らす星』に続いて購入し、寝る前にこつこつ一週間くらいかけて読破しました。完全に『七つの海を照らす星』の続編になっているので、先に『七つの海を照らす星』を読んでいないとだめなタイプですね。登場人物も被っていて『アルバトロスは羽ばたかない』の方では詳しい人物説明がないまま物語が進行したりしますし。

さてさて。中盤までは正直そこまで物語に夢中になれませんでした。おもしろかったですけど、寝る間を惜しんで読むほどでは…って感じで。現在の「冬の章」に対して過去偏にあたる「春の章~夏の章~秋の章」は物語的にどういう意味合いがあるのか謎でしたし。高村くんという新規キャラもめちゃめちゃ唐突感がありましたし、話にあんまり絡んでこないのも変な感じでした。

ということでネタバレで語ります。

まったく想像もしてなかったオチで、かなり衝撃度が高かったです。というか、叙述かよ!という驚きがそもそもありました。前作『七つの海を照らす星』は叙述無しの普通のミステリでしたし。男女錯誤くらいはありましたけど。ちょっとこれは予想外すぎて本当にびっくりしました。前評判無しでミステリを読むとこういう衝撃を味わえるのだなぁと思いましたね。でも叙述ですべてが納得というか、読んでいて変な感じだった部分もすべてこの叙述トリックへ到達するためのものだとわかったらすっきりできました。

春、夏、初秋、晩秋が北沢春菜視点、冬のⅠ~Ⅵが野中佳音視点。叙述トリックのパターンって本当に無数にありますよね。冬の章、これ全部佳音ちゃん視点だったのか…と思いながらすべて二度読みしてしまいました。ちょっと無理があるなぁって部分もありましたけど。最初の警察署のシーンとか、「北沢春菜です、と答えると~~」はさすがにひどいんじゃ…。でも高村くんと二人で話しているシーンは高村くん&春菜の会話のように見えつつも少しずれてるって感じになっていて、すごいうまいなぁと思いました。叙述ものは二度読みでさらに楽しめるのがお得感ありますよね。正直この『アルバトロスは羽ばたかない』は叙述トリックのために一度読みのときの楽しさを削ってる感はありましたけど、その分二度読みで楽しめました。

というか、前作『七つの海を照らす星』では作者名が作中人物のペンネームというオチになっていたり、この続編『アルバトロスは羽ばたかない』では前作の主人公&親友が逆転して親友&主人公という構図になっていたり、豪快なことをしてくる作家だなぁと思います。これは他の作品も読んでみたいですね。